京都駅前セミナー

〜非線形現象の数理を考える〜

 

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◎第106回

 

日時: 令和5年3月29日(水) 15:00-18:00
場所:キャンパスプラザ京都6階第7講習室 及び Zoom

講演 

Jack Xin (University of California, Irvine)

題目1 

Particle and Game Theoretic Methods for Front Speeds in Fluid Flows

概要 

 We study and compute large time front speeds of Fisher-Kolmogorov-Petrovsky-Piskunov equation in fluid flows with chaotic and stochastic streamlines based on a normalized Feynman-Kac representation and the associated genetic interacting particle (IP) method. Examples of such flows are Arnold-Beltrami-Childress (ABC) flows and their random perturbations. The method is mesh-free and self-adaptive, providing training data for efficient deep learning of the invariant measure of IP evolution in the small molecular diffusivity regime.  We analyze a curvature dependent level set Hamilton-Jacobi equation arising in turbulent combustion, and show the existence of effective front speeds in cellular (BC) flow. To overcome non-coercivity and non-convexity of the Hamiltonian, we leverage Kohn-Serfaty deterministic game characterization and streamline structure of the flow.

題目2 

Coarse Gradient Descent Method and Quantization of Deep Neural Networks

概要 

 Quantization is an effective approach to accelerate deep neural networks by restricting their weights and activation functions to low precisions. However, the training objective (loss function) becomes discontinuous so that the standard gradient either vanishes or does not exist. We discuss a notion of coarse gradient (also known as straight through estimator) that acts on smooth proxies of discontinuous functions, and (with proper design) leads to descent of the loss function in training as well as satisfactory network generalization accuracy. We show both analysis on solvable models and experiments on convolutional networks in image classification.

 

◎第105回

 

日時: 令和4年11月25日(金) 16:00-17:30
場所:キャンパスプラザ京都6階第7講習室 及び Zoom

講演 

池田 榮雄(富山大学)

題目 

反応拡散系における中心多様体縮約で導出されるODE系の係数決定について

概要 

反応拡散系における解(フロントやパルス解)の様々な挙動を調べる為の一つの有効な手法として,分岐点近傍でそのダイナミクスをより低次元の常微分方程式系に帰着し,それを解析する中心多様体縮約理論がある。しかし,通常は具体的な問題に応用する時,その縮約ODE系の係数を決定することは大変困難である。数値計算に頼るか,あるいは栄氏(北海道大学)の開発した固有関数や補助関数を使った係数を決める計算式を用いるにしてもその計算量は膨大である。本講演では,2つの具体的な例を紹介し,基本となる解の安定性等の情報があれば比較的簡単に縮約ODE系の係数が決定できること示す。

 

◎第104回

 

日時: 令和4年10月7日(金) 16:00-17:30
場所:キャンパスプラザ京都6階第7講習室 及び Zoom

講演 

桑村 雅隆(神戸大学)

題目 

細胞極性のoscillationsとwave-pinningについて

概要 

細胞には極性(向き)がある。 細胞極性のoscillationsとは、極性が周期的に消滅と生成を繰り返す現象であり、 そのときに極性(向き)が反転することもあればそうでないこともある。 細胞極性のwave-pinningとは、外部シグナル(フロント状の初期値)を与えると、 それが内部へ伝搬(traveling front)して途中で停止(pinning)する現象であり、 細胞の極性が出現する要因を説明している。 本講演では、2成分の保存量をもつ反応拡散方程式系で3次の非線形項をもつものによって、 これらの現象が説明できることを説明し、関連する数学的な結果を述べる。

 

◎第103回

 

日時: 令和4年7月8日(金) 16:00-17:30
場所:キャンパスプラザ京都6階第7講習室 及び Zoom

講演 

石井 宙志(京都大学)

題目 

非局所反応拡散方程式における積分核形状に依存した解の時空間ダイナミクス

概要 

近年,未知関数と適切な積分核との空間方向の合成積で与えられる非局所効果を反応拡散方程式に加えた, 非局所反応拡散方程式が様々な分野の数理モデルとして提案されている. このような非局所反応拡散方程式は積分核形状に依存して, 多様な時空間パターンが生成されていることが知られている. 本講演ではまず,非局所反応拡散方程式の数理モデルおよびパターン形成問題に関する数学解析に関する先行研究を紹介する. その後,本研究で行った中心多様体縮約理論に基づく数学解析の手法について説明した後, 解の時空間ダイナミクスに潜む積分核形状の影響について考察する.

 

◎第102回

 

日時: 令和4年6月30日(木) 16:00〜17:30
場所:キャンパスプラザ京都6階第7講習室 及び Zoom https://us02web.zoom.us/j/89810477731?pwd=atQPDRE30XKUubUnKE26XRvIlIFacI.1

講演 

市田 優(明治大学)

題目 

ポアンカレ型コンパクト化が導く無限遠ダイナミクスとその応用

概要 

本講演では,常微分方程式系の無限遠ダイナミクスとその応用例について紹介する.前半では,本講演の中心的な役割を果たすポアンカレ型コンパクト化や特異点膨らましと呼ばれる手法の概要について簡単に紹介し,無限遠ダイナミクスに関する取り扱いについて述べる.後半では,その応用例として偏微分方程式の特殊解に関する最近の講演者の取り組みを(時間の許す限り)2つ紹介したい.1つ目は曲線短縮問題に由来を持つ空間1次元退化放物型方程式における非負の進行波解の分類(解の存在,形状に関する情報や漸近挙動)に関する結果である.そして2つ目は高次元におけるある走化性方程式系の球対称定常解の存在や形状,漸近挙動に関する結果である.

 

◎第101回

 

日時: 令和4年5月20日(金) 16:00〜17:30
場所:キャンパスプラザ京都6階第7講習室 及び Zoom https://us02web.zoom.us/j/86200494491?pwd=SXVGQ1owQmJCZml5Q3kwV2pBcldtdz09

講演 

下條 昌彦(東京都立大学)

題目 

反応拡散方程式の伝播現象とLiouville型定理

概要 

Liouville型定理は典型的な全域解を特徴づけるものである. 本講演では連立系の反応拡散方程式に対して, 定数定常解に関わるLiouville型定理を紹介する. 得られたLiouville型定理を応用し, 反応拡散方程式系の伝播現象における 解の漸近挙動を解析する. より詳しく述べると,たとえば 捕食者被食者系における解の波面は確定した速度で 広がることが知られていたが,そのfinal zone における 解の漸近挙動は未解決であった. この問題を解決したことを報告する. さらに,一般の異常拡散をもつ連立放物型方程式に対して得られた 定理を拡張する.

 

◎第100回

 

日時: 令和4年5月12日(木) 16:00〜17:30
場所:龍谷大学瀬田キャンパス1-614 及び Zoom https://us02web.zoom.us/j/88435737218?pwd=aDhXS1BXZURKN0RkMDdJWlRNR1M1UT09

講演 

内海 晋弥(学習院大学)

題目 

小さい粘性係数をもつ流れの圧力近似度に着目した高精度有限要素計算

概要 

非圧縮粘性流体の運動を記述する Navier-Stokes 問題や関連する Oseen 問題の解の有限要素計算を考える.粘性係数が小さいときに高精度な解を得る上で,移流項の処理と境界層への対応の他に,流速と圧力の近似法に起因する問題が存在する.近年,通常の有限要素近似では厳密に満たされない非圧縮性の近似度を高めることによりこの対処が行われてきた.一方,講演者は圧力の近似度に着目する.講演者は Lagrange-Galerkin 法において,流速/圧力の近似法に広く用いられている P2/P1 有限要素法を P2/P2 圧力安定化法に置き換えることにより数値解が改善することを,理論的,数値的に見てきた.本講演では,この結果と,最近の圧力高精度近似法の結果を述べる.

 

◎第99回

 

日時: 令和4年4月28日(木) 16:00〜17:30
場所:Zoom https://us02web.zoom.us/j/89763586088?pwd=NVRza1phSDhlVDNCOEtpem9zNWl6QT09

講演 

池田 幸太(明治大学)

題目 

Theoretical study of the emergence of periodic solutions for the inhibitory NNLIF neuron model with synaptic delay

概要 

ガンマ波と呼ばれる脳波の一種が実験的に観測されている. 脳波は多数のニューロンが相互作用しつつ, 系全体として発せられると理解できる. 先行研究において, Brunel らは積分発火モデル, 通称NNLIFモデルを用いることでガンマ波発生メカニズムの理論的な説明を試みた. 同時に, 時間遅れ項やデルタ関数といった強い非線形性を有するFokker-Planck方程式 (以下FP) をNNLIFモデルから導出した. したがってガンマ波を理論的に調べるためには, FPに現れる時間周期的な解の挙動を調べることが重要であると言える. 実はFPにはパルス型の空間形状を保ちながら平行移動する時間周期解の存在が数値的に確認されている. 本研究では, このパルス解の時空間的な特徴を捉えることが目標とする. 我々の研究により, 適当な近似の下では, パルス解の空間形状はガウス関数で表現され, パルスの中心座標はある時間遅れ常微分方程式に従うことが分かった. 本講演では, この時間遅れ方程式に関する我々の解析結果について紹介する.

 

◎第98回

 

日時: 令和4年4月15日(金) 16:00〜17:30
場所:Zoom https://us02web.zoom.us/j/84006095845?pwd=ekJIcEIzbloyWmo4dm1lN3VtME5qZz09

講演 

渡辺 樹(早稲田大学)

題目 

Deterministic Limit of the Stochastic Model of Nonlocal Cross-Diffusion

概要 

本講演では多次元マルコフ過程で構成される非局所な拡散現象を表す確率モデル(ゼロレンジプロセス)に着目し, その連続極限について議論する. 特にGaliano-Velasco(2019)で提案された交差拡散を伴う積分方程式系に類似した連立系に対して, 解の存在を示す. ゼロレンジプロセスは各サイトの粒子数に制限のない粒子系であり, Arnold-Theodosopulu(1980)で化学反応のモデル化に用いられ, それ以降多くの研究者によって様々な拡散現象のモデル化及びその極限解析が行われいる. 前半ではまず単一の方程式に対するゼロレンジプロセスの連続極限に関する研究を概説する. 後半ではそれを連立系に拡張し, 得られた連続極限の結果と証明のアイデアを紹介する.

 

◎第97回

 

日時: 令和4年1月21日(金) 15:45〜17:15
場所:Zoom https://us02web.zoom.us/j/86784824439?pwd=R0N1TWJxOExRMGsxUllxOGQzU09NUT09

講演 

中村 直俊(名古屋大学大学院理学研究科・異分野融合生物学研究室)

時間 

14:30〜16:00

題目 

細胞の表現型不均一性を数理モデルとデータサイエンスで解明する

概要 

ヒト個体は数百種類におよぶ細胞で構成されており、それぞれの細胞は異なる機能を果たしている。 細胞内ではさまざまなシグナル伝達経路が複雑に絡み合っており、その解明は日常言語だけでは不可能であって、 数理モデルが果たすべき役割は大きい。複雑な絡み合いから本質を抽出するために、データサイエンスの手法も必要になる。
この講演では、肝細胞がんの悪性化経路、すなわち良性の細胞が悪性の細胞に転化する仕組みを題材に、 細胞の示す表現型の違いをスナップショットのデータから読み解く方法について解説する。

 

◎第96回

 

日時: 令和3年11月12日(金) 16:00〜17:30
場所:Zoom https://us02web.zoom.us/j/81925238441?pwd=MnZFVWNQdmdjQTBtTTU4SDdsZ1M3QT09

講演 

斉藤 稔 (自然科学研究機構 生命創成探究センター/基礎生物学研究所)

時間 

14:30〜16:00

題目 

フェイズフィールド法を用いた細胞変形動態モデリング

概要 

免疫細胞や細胞性粘菌などのアメーバ細胞は糸状仮足、葉状仮足などを自発的・継続的に生成消滅させ、様々な形状を取る。これらは一、二次元的な変形にとどまらず、時として三次元的な大変形も現れ、免疫監視機構、ガン浸潤、生体組織の発生、成長、恒常性維持などの重要な生体機能と密接に関わっている。個々の細胞の変形メカニズムや、細胞の変形が組織全体に与える影響を理解するためには、数理モデルによる解析およびデータ駆動解析が重要になる。本研究では細胞変形に注目し、一細胞の変形動態を対象としてフェイズフィールド法を用いた数理モデリングを紹介する。 二次元的な細胞のアメーバ的遊走運動を対象にした研究[1]では、フェイズフィールド法を応用し、細胞膜変形と細胞内シグナル動態を記述できる数理モデルを開発した。同時に、深層学習を応用し、細胞性粘菌、ケラトサイト、HL60などの大量の細胞輪郭画像データから、細胞の形状を定量化できるような特徴量の抽出を行った。この特徴量を元にして、シミュレーションで得られた細胞形状と実験データ画像を特徴量空間上で比較し、細胞種や変異による細胞形状の違いがどの物理化学的なパラメータの違いによるものかを議論した。 また三次元的な変形としてマクロピノサイトーシスのモデリングを行った[2,3]。マクロピノサイトーシスはアクチン依存的なエンドサイトーシスの一種で、細胞膜が盛り上がりカップ状の構造を形成し、カップが閉じることにより細胞外溶液を取り込む細胞膜の3次元的陥入現象である。マクロファージや細胞性粘菌、樹状細胞などでは、自発的・継続的に起こり続ける。マクロピノサイトーシスの3次元的な細胞膜変形を扱うために、フェイズフィールド法を応用し、張力/体積保存/アクチン重合による力などを考慮した細胞膜変形と、膜上のシグナル因子の反応拡散方程式を同時に扱うことができるモデルを構築した。発表では、一見複雑なマクロピノサイトーシスが単純な原理(反応拡散+膜の変形)から理解できることを示す。また、凹凸のある基質面でのアメーバ細胞運動のシミュレーションや多細胞系への発展についても紹介する予定である。

[1] Imoto, Saito, Nakajima, Honda, Ishida, Sugita, Ishihara, Katagiri, Okimura, Iwadate, Sawai "Comparative mapping of crawling-cell morphodynamics in deep learning-based feature space" PLOS Computational Biology 17(8): e1009237 (2021)
[2] Saito and Sawai, "Three-dimensional morphodynamics simulations of macropinocytic cups." iScience (2021): 103087.
[3] Honda, Saito, Fujimori, Hashimura, Nakamura, Nakajima, Sawai "Micro-topographical guidance of macropinocytic signaling patches." bioRxiv (2020).

 

◎第95回

 

日時: 令和3年10月29日(金) 14:30〜16:00
場所:Zoom https://us02web.zoom.us/j/85861803279?pwd=OEI3NDhKQTFhSTJ0cldOOHhFUklaZz09

講演 

藤原 瑠 (明治大学先端数理科学研究科 D1)

時間 

14:30〜16:00

題目 

非局所Mimura-Murrayモデルの不連続定常解

概要 

非局所Mimura-Murrayモデルは, 被食者と捕食者が非局所的に拡散する様子を表現するモデルであり, 積分項を持つ拡散項と非線形項により記述される2成分非局所反応拡散方程式である. 一般に非局所反応拡散方程式は, 有限なネットワーク上における反応拡散モデルに対して, ノードの数を無限とした方程式として解釈できる. 空間が有限な複雑ネットワークの場合, 中尾ら(Nature Physics, 2010)の数値計算結果から, 一様解がTuring不安定性によって不安定化し, 安定な非一様定常解に収束することが示唆されている. そのため, 非局所Mimura-Murrayモデルの解の様子を調べることは, 種々のネットワーク上における生態系について解析する足がかりとなる. 本講演では, 非局所Mimura-Murrayモデルが不連続な定常解を持つことを示す. また, この不連続定常解が, 有限ネットワーク上のMimura-Murrayモデルに関連していることについても言及する.

 

◎第94回

 

日時: 令和3年10月1日(金) 16:00〜17:30
場所:Zoom https://us02web.zoom.us/j/81702591173?pwd=UXVNbEh0Qjh6R0JjZk1pc1ZnOE8yUT09

講演 

小澤 歩 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 D2)

時間 

16:00〜17:30

題目 

大域的フィードバックを受ける振動子集団の相図とフィードバックの最適化

概要 

複数の振動子が相互作用によってリズムを揃えて振動する現象は同期現象と呼ばれ,様々なシステムで観察される.例えば私たちのもつ約24時間の活動リズムの生成には細胞間の同期現象が重要な役割を果たすことが知られている.一方で神経細胞の過度な同期はパーキンソン病などの疾患に関係すると指摘されている.同期現象のもたらし得るこれらの機能や弊害に動機づけられて,振動子集団の制御方法が研究されてきた.特に,振動子集団の状態に応じて集団全体に外力を与える大域的フィードバックは,実装が比較的容易であり,パーキンソン病治療への応用も期待されている.しかし,その効果の数理的解析は容易ではなく,比較的シンプルな振動子モデルについてすらフィードバック下の集団状態の相図が部分的にしか与えられてこなかった.そこで,解析のしやすい振動子モデルとして知られる蔵本-坂口モデルをベースにして,大域的フィードバックを受ける振動子集団の数理モデルを構築した[1].そして,数値的・解析的な分岐解析と数値シミュレーションを通じて集団状態の包括的な相図を得た.この相図は,大域的フィードバックを受ける振動子モデルに関してこれまでに報告されてきた3種類の典型的な集団状態を全て含んでいた.さらに,相図の一部の境界線を近似する曲線の式を導出した.これらの解析から,(i)なるべく弱いフィードバック強度で目的の集団状態を実現するためのフィードバックのパラメータ, (ii) 複数の集団状態が安定な場合に目的の状態を実現するための戦略,が明らかになった.

[1] A. Ozawa and H. Kori, Feedback-induced desynchronization and oscillation quenching in a population of globally coupled oscillators, Physical Review E 103, 062217 (2021).
https://doi.org/10.1103/PhysRevE.103.062217

 

◎第93回

 

日時: 令和3年 7月16日(金) 16:00〜17:30
場所:Zoom https://us02web.zoom.us/j/89483703091?pwd=ZlB5YnRkKzNxcXNONXVMUXR4Tkh6dz09

講演 

田中 吉太郎 (公立はこだて未来大学)

時間 

16:00〜17:30

題目 

細胞や格子の大きさと形状を保存する空間離散モデルの連続化法とパターン形成への応用

概要 

細胞や格子の大きさと形状を保存したまま空間独立変数が離散量である数理モデル(空間離散モデルと呼ぶ)を連続化する方法について紹介する. この手法は,平行移動作用素と適当な積分核との合成積の作用素(この作用素を非局所相互作用と呼ぶ)によって実現される. この手法により,平行移動作用素を用いると,一様な細胞や格子上の非線形の空間離散モデルは系統的に空間連続モデルに書き換えられ, 初期値が同じならば両方程式は各点的に同値になる.また数理解析や実験への応用のために,平行移動作用素を軟化子の合成積で近似し,空間離散モデルを, 非局所相互作用を含む発展方程式で近似する.特異極限法からこの近似が成立することを示す.最後に,空間離散モデルの反応拡散系に本手法を適用し, Alan Turingが提唱した拡散誘導不安定化に対応する条件を導出した結果について紹介する. 本連続化法の内容は,栄 伸一郎氏(北海道大学), 石井 宙志氏(北海道大学),佐藤 純氏(金沢大学),Miaoxing Wang氏(金沢大学),八杉 徹雄氏(金沢大学)との共同研究に基づき, 空間離散モデルの拡散誘導不安定化の内容は南 彩菜氏(公立はこだて未来大学)との共同研究に基づく.

 

◎第92回

 

日時: 令和3年 7月2日(金) 16:00〜17:30
場所:Zoom https://us02web.zoom.us/j/89779545405?pwd=TG5xOWdJbXhPWHZXWkpPeGwwMlU0Zz09

講演 

榊原 航也 (岡山理科大学)

時間 

16:00〜17:30

題目 

バイドメインモデルにおけるフロント解・パルス解の漸近挙動

概要 

 バイドメインモデルは,心筋組織の電気的動態を記述する数理モデルであり,心臓電気生理学において重要な役割を果たしている.バイドメインモデルの数値計算を通じて心臓内の興奮伝播を調べる研究は数多くあり,また,数学的観点からは適切性がよく調べられている.その中で,論文 [2] において,バイドメイン Allen-Cahn方程式におけるフロント解の安定性が初めて示された.特に,フロント解の周りでの線型化作用素のスペクトルを詳細に調べることにより,あるパラメータ領域において,バイドメイン Allen-Cahn 方程式のフロント解は不安定になることが証明された.さらに,不安定なフロント解からジグザグ状の解がHopf分岐として現れることが数値的に確かめられた.しかしながら,そのジグザグフロントの形状を決定するメカニズムはわかっておらず,また,バイドメイン FitzHugh-Nagumo方程式を考えると,パルス解の安定性についてはまだわかっていない.
 本講演では,バイドメイン Allen-Cahn 方程式におけるフロント解,バイドメイン FitzHugh-Nagumo 方程式におけるパルス解の漸近挙動を,詳細な数値計算を通じて調べる.特に,ジグザグフロントの形状が Frank 図形を用いた議論により説明できること,また,パラメータに依存して,Hopf 分岐が超臨界か亜臨界が変わりうることを示す.さらに,バイドメイン FitzHugh-Nagumo 方程式においては,パラメータに応じて,不安定なパルス解がジグザグパルスになったり消滅したりすることも示す.
 本講演の内容は,奈良光紀氏(岩手大学),俣野博氏(明治大学),森洋一朗氏(ペンシルベニア大学)との共同研究に基づくものであり,詳細はプレプリント [1] にまとめられている.

[1] H. Matano, Y. Mori, M. Nara, and K. Sakakibara, Asymptotic behavior of fronts and pulses of the bidomain model, arXiv:2105.00169
[2] Y. Mori and H. Matano, Stability of front solutions of the bidomain equation, Comm. Pure Appl. Math. 69 (2016), 2364?2426

 

◎第91回

 

日時: 令和3年 6月4日(金) 16:00〜17:30
場所:Zoom https://us02web.zoom.us/j/81114705896?pwd=MlZqMnplTlcvWm9QUERoRjByY1Rndz09

講演 

安田 修悟 (兵庫県立大学)

時間 

16:00〜17:30

題目 

Asymptotic preserving scheme for two-stream kinetic transport equation with internal state

概要 

本セミナーでは、文献[1]で提案された内部状態を含む二方向流れ運動論方 程 式に対する漸近保存型(Asymptotic Preserving, AP)数値スキームについ て解 説する。本研究で扱う運動論方程式は、走化性細胞の細胞内シグナル伝 達(内部 状態)を考慮したものであり、通常の運動論方程式に対して新たに 内部状態を表 す変数が一つ加わっており、これが数値計算をより挑戦的なも のへとしている。内部状態を含む運動論モデルは、内部状態の緩和時間のスケーリングによっ て多様な極限モデルが漸近解析によって導かれる。例えば[2]では、緩和が遅 い場 合には拡散型スケーリングによってケラ=シーゲルモデルが、緩和が早 い場合に は双極型スケーリングによって別のタイプの走化性運動論モデルが 導かれること が示されている。本セミナーで紹介するAPスキームは、スケー リングパラメータ によって精度が依存せず、その極限において、元の運動論 方程式の漸近解析の結 果と矛盾しない差分スキームを得ることができる。
[1] N. Vauchelet & S. Yasuda, “Numerical scheme for kinetic transport equation with internal state”, SIAM Multiscale Model. Simul. 19, pp. 184-207 (2020).
[2] B. Perthame, W. Sun, M. Tang, and S. Yasuda, “Multiple asymptotics of kinetic equations with internal states”, M3AS 30, pp. 1041-1073(2020).

 

◎第90回

 

日時: 令和3年 4月23日(金) 16:00〜17:30
場所:Zoom https://us02web.zoom.us/j/82958189162?pwd=SU5jMDJYajhrWHI2ZlgrN1V5andSZz09

講演 

馬越 春樹 (龍谷大学, OCAMI)

時間 

16:00〜17:30

題目 

特異な初期値を有する半線形熱方程式の時間局所的な解の一意存在

概要 

特異な初期値を有する半線形熱方程式を考える.ルベーグ空間に初期値を取る場合,時間局所的な解の適切性が大きく変化する,初期条件に関する閾値の存在が知られている.本講演では,このアナロジーとして,負冪のソボレフ空間を初期値とする場合を考える.まず,一般化された初期条件を与えて,時間局所的な解が一意的に存在する為の十分条件となることを示す.更に,この一般化に付随して生じる時間局所解の非存在に関する結果も紹介する.

 

◎第89回

 

日時: 令和3年 3月22日(月) 16:00〜17:30
場所:Zoom https://ru-ast.zoom.us/j/98056856984?pwd=OG5LYkRORFhyWVBLV1Q4U1JzMHVrQT09

講演 

渡邉 紘 (大分大学)

時間 

16:00〜17:30

題目 

放物型・双曲型単独保存則の1次元初期値問題に対する特殊解の構成とその応用

概要 

放物型・双曲型保存則と呼ばれる単独方程式の1次元初期値問題を考察する. 本方程式は非線形移流項と非線形拡散項を持つため, 放物型方程式と双曲型方程式の 両方の性質を持ち, 様々な数学モデルへの応用が知られている. 本問題に対する適切性の結果は多数得られているが, 解の挙動に関する結果は非常に 限定されている. 本講演ではまず, 本問題に対する衝撃波型の特殊解を構成する. そして構成された特 殊解を用いてエントロピー解の漸近挙動を考察する. さらに, 希薄波型の優解, 劣解 の構成についても触れ, エントロピー解の台の伝播速度の評価へ応用する.

 

◎第88回

 

日時: 令和3年 2月5日(金) 16:00〜17:30
場所:Zoom https://ru-ast.zoom.us/j/93498213519?pwd=anZmQlJGRmtRemorMis5UU5xRTU2Zz09

講演 

小川 知之 (明治大学)

時間 

16:00〜17:30

題目 

Bifurcation of a non-trivial traveling wave solution in a 3-component competition-diffusion system

概要 

2種の競争拡散方程式系では,競争が強いという条件下で安定なフロント 型の進行波解が存在することが知られている.ここに外来種が同じく競争的な関 係で侵入を試みる場合,在来2種の遷移部分(バッファーゾーン,緩衝地帯)が 外来種の生存チャンスになりうるかと言う問題を検討する.すなわち,拡張した 3種の競争拡散方程式系でも,もちろん,外来種ゼロとした元のフロント型進行 波は自明な解であるが,外来種の増殖率をパラメーターとしたときにこの自明解 が分岐することを示し,その分岐構造を競争係数から分類することを試みる.本 研究は,池田榮雄氏(富山大学),栄伸一郎氏(北海道大学),三村昌泰氏(広 島大学)との共同研究に基づく.

 

◎第87回

 

日時: 令和3年 1月29日(金) 16:00〜17:30
場所:Zoom https://ru-ast.zoom.us/j/97262206644?pwd=c3FDd3BCbUJ4NlFJZ25NKzlTSUFZdz09

講演 

中田 行彦 (青山学院大学)

時間 

16:00〜17:30

題目 

感染症数理モデルから現れる分布型時間遅れをもつ微分方程式の周期解について

概要 

時間遅れをもつ微分方程式(Delay Differential Equations)は,工学や自然科学における様々な現象の記述に現れ,初期値問題の定式化をはじめとする数学理論は精力的に研究されているが,時間遅れによって出現する多種多様なダイナミクスについて,現在でも未解決であったり,理解が十分でないことも多い.本発表では,個体の再感染を仮定した感染症数理モデルから現れる時間遅れをもつ微分方程式を紹介し,極限方程式がもつ特徴的な周期解の存在を明らかにする.個体の再感染を仮定した感染症数理モデルは,生涯免疫を仮定した感染症数理モデルと異なって,解の振動や周期解を引き起こすことがよく知られてきたが,その周期や振幅,安定性や分岐などの性質について解析は困難だと考えられ,応用における障害ともなっている.本発表では,感染症数理モデルから現れるある種の極限方程式(これは分布型の時間遅れをもつロジスティック方程式である)の周期解が,外力がないDuffing方程式の周期解によって与えられることを示す.従って,この周期解はヤコビの楕円関数によって明示的に表現することが可能である.証明においては,保存量をもつ常微分方程式を用いて,離散型の時間遅れをもつ微分方程式の周期解を調べたKaplan & York (1974)のアイデアを,分布型の時間遅れをもつ微分方程式に応用した.また関連する分布型の時間遅れをもつ微分方程式に関する結果も議論したい.

 

◎第86回

 

日時: 令和3年 1月22日(金) 16:00〜17:30
場所:Zoom https://ru-ast.zoom.us/j/93599827795?pwd=eWI5T1FYUERWeDQyV0ZXOUxzWkh6UT09

講演 

物部 治徳 (岡山大学)

時間 

16:00〜17:30

題目 

Fisher-Stefan model and Fast reaction limits of RDS

概要 

本講演では、三村・山田・四ツ谷(1986)、Du・Lin(2010)によって提唱された 自由境界を持つFisher-KPP モデル(Fisher-Stefam モデル)及びそれに関連する近年の自由境界問題が、 ある三成分の反応拡散方程式系の特異極限(急速反応極限)として表される事について言及する。 この近似を踏まえて、Fisher-StefanモデルとFisher-KPPモデルはどのような関係性を持つのか、 またFisher-Stefanモデルに対してどのような解釈が出来るのかについて言及する。 本研究は、出原浩史氏(宮崎大学)とChang-Hong Wu氏(NCTU)との共同研究に基づく。

 

◎第85回

 

日時: 令和2年 12月25日(金) 15:00〜16:30
場所:Zoom https://ru-ast.zoom.us/j/99110608904?pwd=MUpoS283SnlXdFVQL0JnVlhudmdBdz09

講演 

出原 浩史 (宮崎大学)

時間 

15:00〜16:30

題目 

狭い空間におけるくん焼実験とシミュレーション解析

概要 

くん焼は火炎を伴わず比較的低い温度でくすぶる燃焼形態であり、 火災の初期段階でもしばしば見られるため、 火災安全の観点から研究が行われてきた。 一方で、くん焼は燃焼限界と呼ばれる 燃焼が持続するか消えるかの境界付近での現象であり、 複雑な燃焼状態を見せることが知られている。 本講演では、狭い空間におけるくん焼に着目し、 これまで提唱されてきた数理モデルについて紹介する。 さらに、近年推進しているくん焼実験についての 数理モデルとそのシミュレーション結果についても紹介したい。

 

◎第84回

 

日時: 令和2年 12月4日(金) 16:00〜17:30
場所:Zoom https://ru-ast.zoom.us/j/91271216816?pwd=YXNIaXV4L1MxNkExNWgwL1FIQUJKQT09

講演 

野津 裕史 (金沢大学)

時間 

16:00〜17:30

題目 

不均質な多孔質媒体内の流れの安定性と数値計算

概要 

不均質な多孔質媒体内の流れを表すNavier-Stokes型のモデルについて安定性評価と数値計算結果を示す。同モデルは2つの非線形項を含む。ひとつは非一様な多孔性を含む移流項であり、もうひとつはForchheimerの抗力項である。Reynolds数が小さいときは線形のDarcyの抗力項が支配的であり、Reynolds数が大きくなるとForchheimerの抗力項が支配的となる。ある条件の下で流速に関する安定性評価が成立することを示す。同条件は多くの現実問題では満たされることが期待される。移流項は多孔性により通常と異なる形をしているものの、多孔性を考慮した新たな流速を導入することで、特性曲線を用いた表現が可能となる。同表現に基づくスキームを提案し、その2次元数値計算結果を示す。本研究はImam Wijaya氏(金沢大卒)との共同研究[DCDS-S,2019]に基づく。

 

◎第83回

 

日時: 令和2年 11月13日(金) 16時00分〜17時30分
場所:Zoom https://ru-ast.zoom.us/j/94193658562?pwd=L2UzTDFFRC9MK1I4aW0vbDlOYUhUQT09

講演 

石本志高 (秋田県立大学)

時間 

16:00〜17:30

題目 

Bubbly vertex model for viscoelastic epithelial tissue and in-silico rheological experiments

概要 

In recent years, epithelial tissues have attracted mush attention due to its ubiquitousness in living body and key role in medical application to regenerative therapy. In early embryo, most organs are wrapped and shaped by monolayer epithelial tissue, and most well-classified cancers are derived from epithelial cells in a tissue. Besides, medical applications of the tissue include skin, a small patch onto bone, retinal tissue, etc. However, most of such applications have been conducted in a trial-and-error basis without sufficient mathematical/physical knowledge of the materials, consuming excessive resources.
Monolayer epithelial tissue, or epithelial sheet, constitutes columnar epithelial cells, and is known to be viscoelastic and plastic material. In order to describe two-dimensionally packed cells in an epithelial sheet, there have been developed several sorts of mathematical and geometrical models, such as the cell vertex model [Honda 1983]. The model describes the static shape of the tissue well, but is not well designed for dynamical description. For this purpose, we have formulated the bubbly vertex dynamics [Ishimoto, et al. 2014}, realising curvatures of cellular boundaries on the cell vertex model. Simulation algorithm was implemented for actual biological samples. We have further implemented in-silico experiments and will show the differences between the conventional vertex model and our model in terms of complex moduli and adequate parameter sets to real examples.

 

◎第82回

 

日時: 令和2年 11月6日(金) 16時30分〜18時00分
場所:Zoom https://ru-ast.zoom.us/j/97863050802?pwd=ZTlXaVd5cTNuMkdYR0xOUlpHNjBuZz09

講演 

石渡哲哉 (芝浦工業大学)

時間 

16:30〜18:00

題目 

遅延微分方程式の解の爆発現象に関する考察

概要 

本講演では微分方程式の解の爆発という観点から時間遅れの効果について議論する。 前半では、時間遅れにより爆発解や周期解が出現するある2次元振動子系についてのこれまでの結果を紹介する。 後半では、1次元の分布型の遅れをもつ微分方程式についての最近の結果を紹介する。 なお、本研究は、Alexey Eremin(Saint Petersburg State University)、石渡恵美子氏(東京理科大学)、中田行彦氏(青山学院大学)との共同研究を含みます。

 

◎第81回

 

日時: 令和2年 10月30日(金) 16時00分〜17時30分
場所:Zoom https://ru-ast.zoom.us/j/92287273894?pwd=TEo3R1NWZWc3aEZZbEZkMFllb1Zmdz09

講演1 

石井裕太 (東京都立大学)

時間 

16:00〜17:30

題目 

メトリックグラフにおける空間非一様な係数を持つSchnakenbergモデルの多重ピーク解について

概要 

Schnakenbergモデルは自己触媒反応を記述した化学反応モデルで, 生物の表皮や胚発生のパターン形成のモデルとしても利用されています. 本講演では空間非一様な係数を持つSchnakenbergモデルのピーク解について, 有限本の線分を端点で繋ぎ合わせた複雑領域であるコンパクトメトリックグラフ上で考えます. また, 今回扱うモデルは熱などの影響で反応速度が変化する状況を想定しています. 本講演では, 一般のメトリックグラフにおけるピーク解の存在と安定性に関する抽象定理に基づいた, 典型的なメトリックグラフにおける結果を紹介します. 更に, 領域の形状と空間非一様な係数によるピーク解へ影響についても紹介します. 本講演の一部は倉田和浩教授(東京都立大学)との共同研究に基づきます.

 

◎第80回

 

日時: 令和2年 10月21日(水) 10時30分〜12時00分
場所:Zoom https://ru-ast.zoom.us/j/97350608084?pwd=QnlzYmc1M0JITVhJQjF5S0FwcmxDZz09

講演1 

坂元 孝志 (明治大学)

時間 

10:30〜12:00

題目 

Differential Equations and Dynamics at infinity

概要 

微分方程式の解の爆発(Blow up)や急冷(Quench)といった有限時間特異性を 力学系の視点から考える. 特に,負冪の非線形項を持つ偏微分方程式の進行波解や定常解の有限時間特異性 についていくつか結果を紹介する. 本公演の内容は,市田優氏(明治大学大学院理工学研究科数学専攻),松江要氏 (九州大学 マス・フォア・インダストリ研究所)との共同研究の成果を含む.

 

◎第79回

 

日時: 令和2年 1月17日(金) 14時30分〜17時45分
場所:キャンパスプラザ京都 6階第7講習室

講演1 

田崎 創平(京都大学 高等研究院)

時間 

14:30〜16:00

題目 

枯草菌の集団形態形成

概要 

枯草菌は環境に応じて多様な集団形態を示す。また、適当な条件下では頑強なバイオフィルムを形成する。このような集団形態の多様性と頑健性を支えているのが、枯草菌の細胞ダイバーシティーである。枯草菌は環境条件や自身の細胞密度情報、コロニー内の部位などに応じて異なる細胞タイプを選択する。そして、各々の細胞タイプの形成する部分集団は、環境変化に応じて非常に細やかに活動を調節している。さらに、これらの集団間の分業によって、コロニー全体の頑健な成長を実現している。特に多様な細胞タイプからなるバイオフィルムの構造は、様々な機能を実現して長期生育を可能としている。本講演では枯草菌の集団形態について概説する。特に、集団形態の環境応答に関する我々の一連の研究は、枯草菌のコロニーパターン形成機構について未解決であった問題たちにひとつの答えを与えるものである。このことに基づき、新たな枠組みの数理モデルを用いて、環境変動に対する集団形態形成を統一的に説明する試みについても紹介したい。

  

講演2 

千葉 逸人(東北大学 材料科学高等研究所)

時間 

16:15〜17:45

題目 

Synchronization of neuronal gamma oscillations on a random graph

概要 

脳神経細胞の膜電位は周期的に変動しており,その大きさがある閾値を超えると発火を起こして電流を放射し,それが隣接する脳細胞に伝わることで情報が伝播する.そのような相互作用により多数の脳細胞の発火リズムが同期するマクロな周期運動は,我々の脳の認知や注意などの機構に関わっていることが知られている.ここでは,脳の比較的局所的な領域において抑制性細胞の同期によって引き起こされるガンマ波(gamma oscillation)について数理モデルを用いて考察する.特に,脳神経細胞のネットワークの複雑さを変化させたときに,膜電位のダイナミクスにどのような変化が起こるかを調べた.

 

◎第78回

 

日時: 令和元年 11月15日(金) 15時00分〜17時30分
場所:キャンパスプラザ京都 6階第7講習室

講演 

木村 正人(金沢大学 数物科学系)

時間 

15:00〜16:00, 16:30〜17:30

題目 

変分的破壊モデル:フェーズフィールドモデルの拡張と亀裂コントロールの試み

概要 

本講演では、Francfort-Marigo (1998)によって始められた破壊現象へのエネルギー変分的アプローチについてなるべく基礎的な部分から解説を行い、画像処理で使われるAmbrosio-Tortorelli正則化を用いたエネルギー最小化を基礎とするBourdinらによる亀裂進展モデルおよび、Takaishi-Kimura (2009)で提案された亀裂進展フェーズフィールドモデルなどの最近の進展などについての概観を試みる。また、変分的破壊モデルの応用として最近講演者らのグループで試みている亀裂進展制御の話題についても触れる。

 

◎第77回

 

日時: 令和元年 6月28日(金) 14時00分〜17時30分
場所:キャンパスプラザ京都 6階第7講習室

講演1 

富樫 英神戸大学大学院 医学研究科

時間 

14:00〜15:30

題目 

細胞間接着の親和性と感覚組織のパターン形成:生物的背景

概要 

私どもは細胞間の接着性の違いに着目し,細胞が自らモザイクパターンに並ぶという新しい細胞選別の原理を見出した.そして、この原理は広く組織形成に用いられていることがわかり,聞こえに働く内耳の聴覚上皮や,匂いの感知に働く鼻腔の嗅上皮といった感覚器の形成において,異なる細胞がモザイク様に並ぶための必須のメカニズムであることを明らかにしてきた (Togashi and Katsunuma Exp. Cell Res. 2017, Katsunuma et al. J.Cell Biol. 2016, Togashi Front. Cell Dev. Biol. 2016, Togashi et al. Science 2011).さらに,生体内で働く細胞選別メカニズムの破綻が生理機能の異常を引き起こし,病気と関わることも見出している(Fukuda et al. Development 2014).本講演では,細胞が接着力の違いをもとに並び替わり,様々なパターンを作り出すメカニズムについて,生物学的な視点から紹介する.

 

講演2 

Svadlenka Karel京都大学大学院 理学研究科

時間 

16:00〜17:30

題目 

細胞間接着の親和性と感覚組織のパターン形成:数理的アプローチ

概要 

最初の講演で提示された問題に対して数理モデルを考える.細胞を集団としてではなく一つ一つ扱う従来のモデルはCellular Potts modelVertex dynamics modelがあるが,細胞の変形,とくに位相の変化,に対して人工的な仮定を用いており,現象を正確に表しているか不明である.そこで,細胞同士の接着力が唯一のパラメータである単純なモデルを提案した.細胞の接着面から成る界面ネットワークの重み付き表面エネルギーの勾配流というシンプルな設定だけに,数学的な解析と数値計算は従来のモデルに比べて格段と難しくなる.本講演では,S. Esedoglu & F. Ottoによる数学解析のアイデアとそこから見えてきた数値解法を,細胞パターン形成のシミュレーション結果とともに紹介する.

 

◎第76回

 

日時:令和元年 6月21日(金) 14時00分〜18時30分
場所:キャンパスプラザ京都 6階第7講習室

講演1

中原智弘 (広島大学大学院理学研究科)

時間

14:00〜15:00 + ディスカッション

題目

非対称細胞分裂における極性パターン形成メカニズムの解明

概要 

細胞の多様化を可能にする仕組みの1つである非対称細胞分裂の初期段階において、母細胞は細胞全体で様々なタンパク質を左右に局在させることで極性を形成する。本講演では、異なる領域で同時に形成される極性を同時に捉えることのできる数理モデルと、細胞膜と細胞質の極性の相互作用によって細胞全体の極性形成が制御されるメカニズムを紹介する。また、極性形成に対する細胞の幾何学的な影響についても述べたい。

  

講演2

藤原 瑠 (明治大学 先端数理科学研究科)

時間

15:30〜16:30 + ディスカッション

題目

スケールフリーネットワーク上のグラフラプラシアンの固有ベクトルの局在性

概要 

大規模なスケールフリーネットワークの特徴を解明することは現実の数多くのネットワークの構造を明らかにすることに繋がる. 特にネットワーク上の拡散はそのグラフラプラシアンの固有ベクトルによって特徴づけられるが, 大規模なスケールフリーネットワークでは固有ベクトルの要素が次数が近いノードの周りで比較的大きな値を取り値が局在することが観察される. しかし, 何故このような局在性が観察されるかは未解決問題である. そこで, $L^p$-graphonという疎なグラフの$[0, 1]^2$上の$p$乗可積分関数による表現を用いることで局在性の起源を探る. この意味で, グラフラプラシアンの連続極限は$L^p$-graphonにより表される
  
本講演において, スケールフリーネットワークのグラフラプラシアンの連続極限は$L^2(0, 1)$上で稠密に定義された閉作用素$L$として表現される. 我々の目標は$L$のスペクトルを決定し, レゾルベントの評価を得ることである. さらに, $L$の「固有関数」の特異性が, 形式的に大規模なスケールフリーネットワークのグラフラプラシアンの固有ベクトルにみられる局在性を示唆していることについて言及する.

 

講演3

岩波翔也(九州大学大学院システム生命科学府)

時間

17:00〜18:00 + ディスカッション

題目

マルチスケールモデルによるHCV感染動態の定量的解析

概要 

C型肝炎ウイルス(hepatitis C virus: HCV)のJFH-1株とJc1株は、非構造領域を共有し、異なる構造領域を持つ。これら二つの株のウイルス生活環について比較すると、JFH-1株は脂肪滴、Jc1株は小胞体で粒子会合を行い、初期粒子放出に関してJc1株の方が早いという違いが見られる。本研究では、HCV株間でウイルス生活環のしくみが多様であることの意義を定量的に解明するために、培養細胞を用いた感染実験の時系列データからウイルス感染の指標を推定し、JFH-1株とJc1株について定量的な比較を行った。

まず、ウイルス感染性の消失を組み込んだウイルス感染の数理モデルをもとに、感染細胞内のウイルスRNA量を考慮することで、感染実験開始後のウイルス量の変化と細胞感染後の細胞内ウイルス量の変化同時に記述する、偏微分方程式によるマルチスケールモデルを構築した。さらに、この数理モデルを用いて時系列データを解析し、JFH-1株とJc1株の適応度、感染率、ウイルス放出率、感染性ウイルス放出割合、細胞内ウイルス増殖率をそれぞれ推定した。

これらのウイルス感染指標の比較から、適応度の違いを生み出す原因となる感染プロセスについて議論したい。さらに、細胞内ウイルス量の経時的な変化を推定したパラメータを用いた再計算をすることで示す。

 

◎第75回

 

日時: 令和元年 6月8日(土) 16時30分〜18時
場所:キャンパスプラザ京都 6階第7講習室

講演者(Speaker

Danielle Hilhorst (Université Paris-Sud, CNRS)

時間 (Time)

16:30〜18:00

題目 (Title)

MATHEMATICAL ANALYSIS OF A PARTIAL DIFFERENTIAL EQUATION MODEL DESCRIBING CHEMOTACTIC E. COLI COLONIES

概要 

(Abstract)

We consider an initial-boundary value problem describing the formation of colony patterns of bacteria Escherichia coli. This model consists of reaction-diffusion equations coupled with the Keller-Segel system from the chemotaxis theory in a bounded domain, supplemented with zero-flux boundary conditions and with non-negative initial data. We answer questions on the global in time existence of solutions as well as on their large time behaviour. Moreover, we show that solutions of a related model may blow up in a finite time. This is joint work with Rafal Celinski, Grzegorz Karch, Masayasu Mimura and Pierre Roux.